小説をちゃんと書こう

小説用の別館です。本館は「ミステリーをちゃんと読もう」http://yutoma233.hatenablog.com/

第25回短編小説の集い感想まとめ

遅くなりましたが、感想書かせて頂きました。
久々に参加した「短編小説の集い」でしたが、書いて終わり、じゃなく皆さんから言及頂けることの楽しさを改めて感じます。

小説は時間が掛かるし孤独な行為だし、完結前に挫折してしまいがち。
誰かの感想を聞いて、それが参考になったり励みになったり、更に書こう!という意欲に繋がるといいですよね。

そんなことを考えながら、皆さんの物語を読ませて頂きました。

 

novelcluster.hatenablog.jp

 

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135.hateblo.jp

 

かわいい!きゅんとしてモゾッとする恋愛小説。
少女漫画の恋の始まるシーンを読んでるような、きゃあああ!と目をふさぎたいけど指の間から見ちゃうような(笑)

『グニグニ、グリグリ』という表現が触感とか軟骨の雰囲気まで伝わってくるようで、しかもなんとなくエロティックでいいなぁ、と思いました。

タイトルをもし変更するとしたら…「Love arthritis」とかどうでしょう?
恋の関節炎(笑)我ながらセンスない…!

 

www.logosuemo.com

 

 明恵さんは小説を書くのは初めてだったのでしょうか?
そうとは思えないくらい、手慣れてるし上手い!
シンクロンという病の症状のリアルさ、そこから精神支配能力というSF展開まで、星新一チックな展開で楽しんで読みました。

そして主人公神代が人類に戻った真の理由とは…神代は思い切り明恵さんだなぁ、と(笑)でもこういうのも小説を読みあう楽しさの一つですね。

面白かったです、ぜひまた書いてください!

 

noeloop.hatenablog.com

 

 かわいい!七海の天然っぷりにニヤニヤしてしまいました。
しっかり者の咲と七海のコンビ、最後「帰れ」で終わる所も面白かったです。

胸キュン要素大好き人間としては、七海が委員長にドキドキするようになったきっかけとか、家ではどんなことを思い出して憎しみ(?)を募らせてるとか、七海目線の具体的なエピソードがあるともっとキュンキュンしてたまらなかったと思います!
なお、個人的な好みとしては委員長は是非メガネでお願いします(笑)

 

nogreenplace.hateblo.jp

 

主催者さまの作品。
一人称ですがこれは「認知の歪み」の物語なので、主人公目線じゃないと書けないお話ですね。

最初から所々に違和感があるのですが(中学生とは思えない主人公、異様な食欲や態度)正しいのは自分で、祖父の側に何かあるのだ、と主人公が考えているため日記が登場するまでその違和感の真の意味に気が付けない。

ミステリーで言う叙述トリック。
オチを知って読み返すとまるで違う世界が見えるので面白いです。

最初はシンプルに怖い、リアルだ、と感じたのですが、こうやって甘やかす、太らせる、母親の悪口を吹き込むおばあちゃんに育てられた友達を実際に知っていることに気がつき更にゾッとしました。

小説と違うのは、おばあちゃんが多分良かれと思ってやっている所。
だからノートも残さないし、周りも気が付けない。
友人にとっては料理上手でなんでも買ってくれる、いつも優しい夢のようなおばあちゃん。

リアルに見える…けれどもこれはあくまでも小説として、ラストに救いを残した物語なのだと思います。

 

diary.sweetberry.jp

 いつも思いがけないオチやトリッキーな要素を取り入れているなおなおさんの作品。
今回のトリックは「さっちゃん」「つーちゃん」と名前が似ている所にヒントがあるのかなぁ。
最初に廃病院に一緒に行った「さっちゃん」は里美ではなく聡史。
だから月子は聡史の話を出してきたのだと思いました。
ラストの方で優子は聡史をさっちゃん、里美をさとちゃん、と呼んでるし。

そこに気が付くまでは月子が超能力者みたいに見えるところが面白いですね。
楽しい恋愛ミステリでした。



fnoithunder.hatenablog.com

 

 貿易船団で働くリュウと、ルナの物語。
病のルナが運ばれた先は防護服、ヘルメット、エアボンベにガスマスクをつけた地底人がいて…というSF。
ラストのIDタグで、舞台は地球でルナは観測員だということが分かります。
ルナとリュウは違う種族だったのでしょうか?
それとも過去や未来から来た人間?

色々想像したくなる、そんな物語でした。
リュウがルナに夢中なのは文章から伝わってくるのですが、逆にルナはどんなことを考えて、命の危険を顧みず彼の傍にいたのでしょう?最後にキスをしたんでしょう?

ルナから見たリュウの話も聞きたかったな、と思いましたが5000字超えちゃいますね。ルナ編、というBサイドで謎が明かされたら完璧かも。
綺麗で切ないお話でした。

 

novels.hatenadiary.com

 

 かんどーさんの小説読むの久々すぎて、これが彼女のブログだと言うことをすっかり忘れてました(笑)
だから誰が書いたか意識せず読み進めて、設定が好きだなぁとか思って…噛み千切るシーンで、あっ、と。そこで気が付いてしまいました。

そのくらい「らしさ」が良く出てるシーンだと思う。
グロいホラーとか書いたら最恐だろうなぁ…。

精神病院の中で、加奈子だけがマトモで。いつ彼女の歪さが暴かれるのだろうと読み進めていたら思わぬ展開でした。

加奈子の母の抱える疑問は、法だけでは裁けない社会の歪み。
加奈子が犯した計画的猟奇殺人の話もミステリー的で面白そうだと思いましたが、そちらは多分五千字に収まらないですね。

 

masarin-m.hatenablog.com

 

まさりんさんの、入院中の男二人の物語。
いい大人なのだけれど、小学生のような「少年らしさ」を残した小杉さんがいい。
そして「小杉さんと同じ」にわざと反発してあちゃー、なんて言われる主人公も。

いい大人だって寂しいし、夢の終わりに感傷的になるのだということ。
幾つになったって友情は生まれるのだという事を改めて噛みしめたくなる物語。

静かなお話だけれど、登場人物が魅力的だから引き込まれますね。
人との距離の近い小杉さんは特にリアル。モデルがいるのかなぁ?

 

author-town.hatenablog.jp

 

小説家が主人公のお話。
小説家の話を書くって、物語が入れ子構造になっているみたいで魅力的ですね。

作中には更に、主人公の小説家が書いた小説も挟み込まれていて面白かったです。

オープニングが、主人公が子供の頃に見た父の姿。
それから主人公が製薬会社らしき企業で働く姿。

そして午前0時に企業小説を書き始める主人公ー。
主人公は兼業作家、という解釈でいいんでしょうか?作中小説に主人公の仕事が生かされていますし。

企業で働く主人公龍一のシーンが、龍一本人ではなく作中小説の一部でもフェイクとして面白いかも、なんて思いました。逆に分かりづらくなってしまうかな?

 

syousetu.hatenadiary.com

 

最後に自作の振り返りを。

以前メインブログの方で、『他人に上手く助けが求められる、自分の状況を周りに伝えられる大人に育てるためにはどうしたらいいだろう?』というような記事を書きまして。

 

yutoma233.hatenablog.com

 

これは最初の構想では3部作だったんですね。まずは人に上手くSOSが出せない長男を育てる中で気がついたこと(上記事)、それから伝える事は大得意だけど察する事が苦手な次男を育てる中で気がついたこと、そして最後に平田オリザさんの行なっている演劇をコミュニケーションに繋げる取り組みについて、書く予定でした。

ところが小1の次男の話が、子育ての真っ只中にいるせいか上手く書けなくて。これは時間を置かないとダメだな…とお蔵入りしてしまったのですが、コミュニケーションと演劇という要素が『演劇病』の思いつきの素になりました。

だからこれはコミュケーションについての物語です。病というテーマとはズレちゃったな…。

 

大まかなプロットを考えた時に、これは5000字に収まらないぞ…と思ったので文字数を意識して、細部は飛ばして書き進めました。最後ようやく制限文字数内で終われる目処がついたので、お笑いのポジション、というお遊び要素を入れてしまいました。アレだけが完璧な思いつきなので、少し浮いてます(笑)

 

次回はもうちょっとテーマを意識して書きたいですね。お題ってなかなか難しいなー、と今更ながらに実感しております。

ではでは、皆様お疲れ様でした。

次回のテーマも難しいのですが、できれば参加したいと思っております。是非またお会いしましょう!

第25回短編小説の集い参加作品ー演劇病

久しぶりの短編小説の集い!
最後に参加させて頂いたのが第14回なので、約一年ぶりです。

ご存じの方も、初めましての方も。どうぞよろしくお願いいたします。

 

novelcluster.hatenablog.jp

 

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演劇病


 底が抜けたように寒い、冬の朝のことだった。
自販機から出てきた缶コーヒーは想像以上に熱い。漱也はお手玉のように手の中で缶を泳がせる。
「あっち!」
思わず上げた声、耳を触る仕草に通りすがりの知らない女子がクスクスと笑う。

漱也は自分の行動に愕然とした。
こんなの俺のキャラじゃない。自分は一体どうしてしまったと言うのか。
中学の時のあだ名は黒子、もしくはステルス。
ステルス迷彩をまとったような漱也の存在は、高一の今とうとう人の目には映らなくなったようだった。高校でのあだ名は無し。それどころか入学から半年、誰かと個人的な会話をしたこともない。


目立たないこと、人目をひかないこと、自分の感情を他人に推測されないこと。
それが漱也の日々の目標だった。

だから声を上げるなど論外。たとえ熱すぎる缶コーヒーに手の皮が剥けようとも、人目を引くような激しい動作はしない。

それがいつもの漱也のはずだった。
今日は何かが違う気がして、彼は不安そうに頭を振り、そして頭を振ったことにも激しく動揺した。

決定打は授業中。
消しゴムを落としてしまった漱也は漏れそうになった声を必死で抑えた。
おかしい。なぜ声が出る。なぜ目で追ってしまう。

普段なら身じろぎ一つせず、落としたことなど悟らせずに授業を終え、何事も無かったように素早く拾うことができた。

いつものTHE・忍者な俺どうした⁉

そんなことを考えていたら無意識に頭をかきむしってしまっていた。
「はいどうぞ」
机の端にコトン、と小さな消しゴムが置かれた。
振り返ると後ろの席の女子がニコニコと丸い目を彼に向けている。
「ありがとう」
名前なんだっけ、という戸惑いまで顔に出てしまったらしい。
彼女が答える。
「文香。熊谷文香。ねぇ、漱也君ってそんなにリアクション上手だっけ?消しゴム落として頭掻きむしる人、初めて見たよ」
面白過ぎる!と二つに結わえた髪を揺らして文香が笑う。その目が好奇心でキラキラ輝いていて、漱也は圧倒されてしまう。

そっちのほうがわかりやすいじゃないか、と興味津々のまなざしに悪態をつきたくなる。

でもさ。
漱也はふっと昔を振り返りたくなった。
俺だってほんの数年前には、あんな風に心の中身が筒抜けの目をしてたんじゃなかったっけ。すぐに笑って、すぐにふくれて、ぎゃあぎゃあ泣いて。

昔の俺は酷かったな、と漱也はあの頃を思い出す。

漱也がステルス・モードを手に入れたのは小5の冬だ。
それまでの彼は嘘のつけない、思ったことが全て顔に出る単純な子供だった。
よく笑い、怒り、泣く。喜びも悲しみも、すぐ口に出るか態度に現れた。

自分の目に映る世界はいつも真っすぐで分かりやすくて、それが真実だと信じていたあの頃。そんな思い込みがもろくも崩れたのは新担任、迫田のせいだ。

迫田はお気に入りの女子を特別扱いする、エコヒイキで陰険な教師だった。
クラスの殆どが彼を嫌っていた。もちろん漱也も。

しかし彼の嫌悪はあまりにも分かりやすかった。迫田はすぐにそんな漱也に目をつけた。
お気に入りの女子相手に猫なで声で話す迫田に、漱也が嫌悪を感じていると彼は必ず振り返り、
「その顔はなんだね、漱也君?」
と聞いた。

漱也の怒りも軽蔑も嘲りも、どんな些細な感情でも迫田は見逃しはしなかった。
そのうち漱也が無邪気に笑っている休み時間や、楽しい給食の時間にまで、
「その顔は何だね?先生を笑っているのかね?」
と聞くようになった。

追い詰められた漱也は笑わなくなり、怒らなくなった。
自分の感情全てを奥底に押し込んで、揺るがなくなった。

筒抜けちゃいけないのだ、と彼は悟ったのだ。
世界には敵がいる。思ったこと全てを伝えるのは油断であり、落ち度だ。

こうして漱也は感情を押し殺す術を学び、目立たないように逃げ延びる術を学んだ。
当時大好きだったゲーム「メタルギアソリッド」のスネークのような最強のスパイに生まれ変わったはずだったのに…。

「そこ、雑談禁止!」
いつまでも後ろを向いてぼんやりしていたから、教師の厳しい激が飛んだ。
突然現実に引き戻されて、うわっ、と漱也は両手を上げる。
そんな彼を見て、文香がまたクスクスと笑った。

絶対に、おかしい。

 


何かがおかしいんです、と言う不明瞭な相談だったのに、診断結果はすぐに出た。
病名は「演劇病」。

神経物質の伝達がナントカカントカで、感情が表に出やすくなったり、オーバーリアクションになってしまうらしい。
まるで舞台役者のように演技過剰になることから演劇病の名がついた、とのこと。

薬を飲めば抑えられるから出しときますね、と初老の医者は事もなげに言った。
それから漱也の目を覗き込む。
「主な要因は過剰なストレスだってさ。心当たり、ある?」

 

薬の袋をぶら下げながら、夜の河川敷を歩いた。
病院は混み合っていて、待ち時間2時間、診察はたったの15分。
暗い河川敷の道を、点いたばかりの街灯が弱々しく照らしている。

ふらふらと心許ない足取りで歩いていると、聞き覚えのある声がした。
誰かが河原で発声練習をしているようだ。

少し背の低い、丸い背中に見覚えがあるような気がして目が凝らすと、視線に気がついたのか男が振り返った。
小さな黒い瞳、丸い頬、温和そうな顔。
「雄太!」
まだ薬を飲んでいなかった漱也は、大股開きで指差し確認というオーバーリアクションをとりたくなる衝動と、自制心の間で千鳥足になり河原の斜面を滑り落ちた。

「久しぶりなのに相変わらずだな」
そう雄太は笑った。

昔、感情だだ漏れだった頃の漱也の親友が雄太だった。
いつも笑顔で、時折はっきり言い過ぎて角が立つ漱也を穏やかになだめてくれる優しい友人。彼が転校してしまったのは漱也が変わった小5の時だ。

漱也が迫田のターゲットにされたばかりの頃、なんとか漱也をかばおうといつもオロオロ、泣きそうな顔をしていた雄太。気の弱い彼は漱也以上に迫田の態度を気にし、とうとう胃を壊して給食の時間にひっくり返った。

そのまま転校してしまった彼と会うのは5年ぶりだ。
変わらない、丸い笑顔に漱也はホッとした。

「お前、こんなところで何やってんの?」
「実はさぁ…」
雄太は照れた顔で1冊のノートを差し出した。表紙にはゲスパー雄太ネタ集と書かれている。
「俺、高校でお笑い研究会に入ったんだ。今度発表会があるから、その練習中でさ。よかったら聞いてくれる?」

 

雄太のネタは最高だった。

ゲスなことしか見抜けない最低のエスパーと言う設定で、出てくる話はくだらないエロ妄想ばかり。雄太の穏やかな顔立ち、のんびりした話ぶりと、どぎつい下ネタが噛み合わなくてそこが余計おかしい。
これを学校でやるのかよ、と漱也は腹を抱えて悶絶した。


「良かったよ、漱也が変わらなくて」
コントが終わった後も笑いが止まらない漱也を見て、雄太が言った。
「5年の時、俺だけ逃げてごめんな。お前が迫田のせいで無表情ロボットになった、って噂聞いて心配してたんだ」

無表情ロボット。それは真実だから漱也の胸に突き刺さる。しかし今の「演劇病」状態では信じてもらえないだろう、と彼は話を適当に受け流そうとした。

「まぁ、あの頃は俺もひどい感情だだ漏れ野郎だったからさぁ」
「何言ってんだ?あんなの迫田がおかしいに決まってんだろ⁉」
お前は何にも悪くないだろ、と雄太は少し怒ったような声で言った。

 

あぁそうか。漱也は初めて自分の間違いに気がついた。

漱也は迫田に絡まれたのは自分のミスだと思っていた。考えがあまりにも筒抜けだから、あんな風な嫌がらせを受けるのだと。自分に付け入る隙があったから駄目だったのだと。

もしも俺が悪いんじゃなく、迫田がただのヤバい奴だったとしたら?

迫田のような存在を恐れて、漱也はアラームの鳴り続ける厳戒態勢中のスネークのように隠れて潜んで生きてきた。

いつアラームは解除されたんだろう?俺の任務はもう終わったのか?

 

「俺はあの頃赤面症で、人前が苦手だったからさ。お前の何でもはっきり言えるとこ、結構羨ましかった」
雄太があの頃と同じ、穏やかな声で話しだした。
「それで思い切って、度胸つけるためにお笑い始めたんだ。まだ全然だけどさ。今日笑ってもらって、少し自信ついたよ」
それからさぁ。雄太は少し息を吸って、言った。

「もし良かったら、俺とコンビでお笑いやらねぇ?いや、もしじゃなくて。是非。絶対。いつかお前とやりたくて、台本書いてあるんだ。漱也は手足長いしリアクションにもキレがあるから、舞台映えするし丸い俺とはいいコンビだろ。お前といつか組むために、左は開けといたからさ!」
「…俺はボケなのか?」
お笑い芸人の立ち位置を頭に思い浮かべながら、漱也は尋ねた。
ダウンタウンは左側が松本だった気がする。
「いや!俺たちが爆笑問題なら俺は田中の立ち位置だろ?お前は太田キャラだから左だよ」
自信満々で雄太が答える。

あれ?太田は右じゃなかったっけ?TV画面から見た話なのか、それとも自分から見ての話なのか、頭がこんがらかってくる。それに結局、太田はボケじゃねぇか。
漱也は可笑しくてたまらなかった。

 

ずっと段ボールを被って生きてきたのに、今までの警戒モードは何だったんだろう?
右側には親友がいて、左手には今日貰ったばかりの薬がぶら下がってる。

文香の丸い目、雄太の笑顔。
今日もいつも通りの一日だったはずなのに、世界はなんだか裏返ってしまった。

あの頃のヒーローに漱也は呼びかける。
スネークスネーク、聞こえますか。俺の任務は終わったのかな。それともこれは新しい始まり?

 

 <終わり:3888文字>

 

短歌の目第12回10月のお題~おにぎりは新米

短歌の目、これが2回目の参加です。

10月は秋の終わりの季節ですね。よろしくお願いします。

 

tankanome.hateblo.jp

 

 

題詠 5首 

 

1. 渋

引いた紅 渋い赤だった 
振り返れこちらを見ろと 手綱を引いた

 

2. 容

デリバリー容器の中華 静寂をうずめる咀嚼 君はクチャラー

 

3. テスト

君と吹くリコーダーテスト
コンドルは飛んで行ったの
同じ速度で


4. 新米

新舞子浜で食べたおにぎりは新米 それで?鮭だったのね

 

5.野分

野分けて 駆けた日の顔 思い出す 刺さっているのは あの日の茨

 

 

テーマ  「空」

 

6.人生をてめえなんかに委ねるか 晴れてみせろよ 駆けてゆくから

 

7.君の声 遠くに飲まれ聞こえない こだまが帰るその日を乞うて

 

 

短歌は考えれば考えるほど浮かばなくなりますね。
何度も指折り数えてしまいました。

できれば毎月参加して、柔らか頭を育てたいものです。
そんな感じで、どうぞよろしくお願いします。

第14回短編小説の集い感想

遅くなりましたが第14回短編小説の集い感想です。

よろしくお願いします。

 

novelcluster.hatenablog.jp

 

 

今回のテーマは食。食欲をそそる文章、美味しさの表現というのはなかなか難しかったです。

 

 

karasawa-a.hatenablog.com

 

夫婦の、料理と本を巡るほっこり暖かくて美味しそうなお話。
本に出てくるメニューを再現してくれる奥さん、本当に素敵。
丘の上の家の景色まで浮かんでくるような、暖かいお話でした。


食事って大切、食べることを楽しむっていいな。

改めてそう感じる作品でした。

 

 

diary.sweetberry.jp

 

かぼちゃ料理が秋らしくてとても美味しそうな作品。

ストレスに追い込まれていたヒロインが、同僚の優しさに励まされ、やる気を見出す明るく優しいお話…の筈なのですが。

 

前の上司だった部長に関しても心配は要りません、私が彼を退職させましたから、今は私が部長なんですよ。だから、安心して戻ってこれます

 

ヒロインのためにここまでする同僚ってちょっと怖い。
そう思っていたら、なおなおさんのブログにまさかの裏設定が。

かぼちゃが人の顔に見えるってそういう理由だったんですね。
優しくて暖かい物語に紛れた、ちょっぴりの毒。
ハロウィンの季節らしいお話でした。

 

 

donutno.hatenablog.com

 

フレンチレストランの一つの席を巡るお話。

洒落たオーダーが出来るお客さんって素敵ですね。短いお話ですが賑わう店内の様子が浮かんできます。

ぶらりと訪れた男は常連さんの息子なんでしょうか。
同じ席の常連になるのかなぁ。

そんな風に、いろんなイメージが浮かんできました。

 

 

masarin-m.hatenablog.com

 

食客、という言葉を初めて知りました。書生さんがいた頃の、古き良き日本の物語、といった感じでしょうか。

古い農家の景色と、葬儀の少し重苦しい雰囲気と、祖父の思い出話。

まさりんさんのお話はいつも、センチメンタルとそれを笑い飛ばすようなカラッとした空気が同居しているような気がします。

 

 

kannno-itsuki.hatenablog.com

 

お久しぶりの菅野樹さん。相変わらず上手いです。

柘榴、って物語が浮かぶ果物ですよね。

お嬢さんのまっすぐな気持ち、先輩は気づいているのかいないのか。
そして彼女の恋心に揺らいでしまった主人公はこれからどう出るのか。

何となく、夏目漱石の「こころ」が浮かんできました。

 

 

tokimaki.hatenablog.com

 

廃業するラーメン店の主とそれを見守る家族、という切ないけれど優しいお話。

そのアイスは淡い緑色をしていた。初めて見るアイスだった。文雄は一口齧って、しゃくしゃくと噛む。夏の日に涼しい、さわやかで透明な喉越し。

「ほぅ、ふうちゃんは抹茶が好きなのか」

この部分とか、せんべいを食べる時に音に集中してしまう、と言った描写が上手いです。

ラストでなるほど、と。

食、というテーマが上手く捻られていて、そういう発想もあったか、と感嘆しました。

 

 

nogreenplace.hateblo.jp

 

洒落た丘の上の家に住む友達への憧れとそれが砕かれた苦い気持ちと。

子供の時は一人っ子の友達に憧れましたが、実際泊りに行ってみると大人っぽい暮らしぶりに追いつけなくて帰りたくなったり。
そんな風に子供の頃を思い出したくなる作品でした。

ビスケットの歌が浮かびました。ポケットを叩くとビスケットは二つ。

ビスケットへの憧れは打ち砕かれるようにできてるのかも。

 

 

syousetu.hatenadiary.com

 

自作です。

えーと、最後にゲーム「ピクミン3」の画像が貼ってあります。

これはピクミン世界をシリアスに描いたらどうなるかな、と遊んでみた作品です。

フェーヤは赤ピクミン、ひっこ抜かれた時のセリフも『ピクミン!』で差し替えて読んでいただけると幸いです。

ピクミン大好きなんですが、ピクミンのいる惑星は、人間の滅びた後の地球じゃないのかな…なんて思っていて。

そんな発想から浮かんだ作品です。ちょっと肝心のテーマ「食」が弱かったです。

反省。

 

 

ではでは、今回も楽しく読ませて、書かせて頂きました。

次回もよろしくお願いします!

 

短歌の目11月のお題参加します

はてな題詠「短歌の目」、初参加させて頂きます、どうぞよろしくお願いします。

11月のお題は初冬の、少し寂しげな風情でした。

人恋しくなる季節なので、ちょっぴりアダルトに詠んだ…つもりです。

 

tankanome.hateblo.jp

 

11月お題 10首

 

1. シチュー

浮気した? そんないけないわるいこはじっくりことこと煮込んだシチュー

 

2.声

声優の名前はいいの あえぎかたイクときの癖好きな台詞を

 

3.羽

羽根布団裸で眠るそう聞いて 君に贈るよ5万円也

 

4.信

信金の裏で内緒のキスをした 信仰もなく信心は捨て

 

5. カニ歩き

飲むたびに漏らすその癖やめてよね カニ歩きでも漏れてるってば!

 

6. 乱

乱雑な部屋のなかでも目立つよに シーツに刺した翡翠のピアス

 

7. とり肌

鳥皮のとり肌みるとゾワッとする カリカリにして食べちゃうけれど

 

8.霜

霜取りの機能の付いた冷凍庫 奥底眠る小指がばれる

 

9. 末

末っ子はいつも最後のアイス食べ お腹が痛い?自業自得よ

 

10.【枕詞】ひさかたの

ひさかたの月でウサギがついている 餅が今なら150円!

 

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短歌は学校以来なので575を数えすぎて指がつりそうでした。

頭の普段使わない所もぴきぴき。

初めてなのでこんなんでいいのか凄く不安ですがとりあえずお願い致します!

第14回短編小説の集い参加作品~惑星ラウレンティスの謎肉

こんにちは、みどりの小野です。
第14回短編小説の集い、今回のテーマは食欲の秋の「食」!

食べ物を美味しそうに描くって難しいですね。
食べ物の事を考えて行ったら、なぜかSFになってしまいました。

今回もどうぞよろしくお願いします。

 

novelcluster.hatenablog.jp

 

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惑星ラウレンティスの謎肉

 

ホシノ・ケイジの航海日誌一日目

 

 今日惑星ラウレンティスに旅だつ。
地球の朝はいつも通り穏やかだ。決まった時間に起床、朝食は和食にした。当分は自分好みに誂えられたこの食事も味わえないのか、と少し感傷的になったが宇宙船に搭載された調理システムも家の物と同じメーカーだった、と気が付きおかしくなった。パラメーターさえ設定しなおせば、地球にいても遠い宇宙の先でも同じ味が楽しめる。

 モニターにはかに座星系からもたらされた新しい果物が映っている。地球で今一番高価で話題なのはこの果物、正しくはこの果物の味が再現されたレシピだ。

 大きなパンデミックの後人類の数は激減した。足りなくなった労働力を補うために世界はオートマチック化され、急激な進化を遂げた。人間ではなくコンピューターに統制された社会は驚くほど穏やかだった。人々は規則正しく健康的な生活を送る。朝は6時に起床、9時以降は外出禁止。11時には床に就くよう電気が消され通信コンソールは使用禁止になる。

無理のない仕事に社会参加、繁殖も機械化され男も女も自分にあったセクサロイドを与えられ性欲を持て余すこともない。

 平和な社会で人々が執着したもの、それは食だった。
今や食事は全てオートメーション化されている。限られた原料から機械が世界中の様々な料理を再現してくれる。皆どのメーカーのどのメニューが美味しい、再現度が高い、と夢中になった。調理システムも、新たなレシピも全てが社会の稼ぎ頭だ。

 しかし地球上で味わえる物には限りがある。低迷した食物業界を盛り上げたのは遠い宇宙からの新たな味覚。

かに座から来た新しい果物はアルタルフ、と名付けられ今年最大のヒット商品になった。今や様々な食物メーカーが新しい味を求めて宇宙に旅立っていく。

 僕もその一人だ。食に人一倍興味があり、この仕事に就いた。
遠い宇宙の果てで、新しい食べ物は見つかるのだろうか。胸が高鳴っている。

 

ホシノ・ケイジの航海日誌二日目

 

 船はようやく地球の引力から逃れた。乗組員達と旅立ちの祝杯を上げる。

乗組員達、といっても乗員は僅か三人。僕、同じくらいの年の女性ケイ・ミオカ。それから僕らを導いてくれる船の頭脳、ティンカー。

 ケイは日に焼けた肌と伸び伸びした手足が魅力的な女性だった。
遺伝子から人の容姿を変えることも可能になった今、僕らは皆似通った容姿をしている。だが彼女は大勢の人とは違って見えた。そばかす、癖のある髪、しゅっと尖った瞳。規定外なのに美しく見える彼女に僕は戸惑ったまま一日を終えた。

 宇宙の美しさや闊達な船の頭脳ティンカーとの面白い会話、何より美しい鹿のようなケイ・ミオカ。何もかも味わいつくせぬまま、僕はしばらく眠りにつく。凍結され、起きるのはラウレンティスに到着する朝。

 何が待っているのだろう。心にあるのは期待だけだ。

 

 ホシノ・ケイジの航海日誌三日目

 

  目覚めると窓の外は圧倒的な緑だった。地球で既に多くが失われた植物。なんて美しい星だろう。気圧、空気の確認や調整が済んだ後ようやく外に出る。

 ラウレンティスに我々と同じ知的生命体はいない、というデータだったが空からは自然の合間に道や建物の痕跡が見えた。かつてはここに栄えた文明があったのかもしれない。

 とはいえ僕の使命はこの星の歴史を知る事ではない。新しい食物を採取し地球にもたらす事だ。これだけ見知らぬ植物が育つ星だ、期待できる。
同じように瞳を輝かせているケイ、それからその名の通り小さな妖精に姿を変えたティンカーと外に出る。

  やはり惑星ラウレンティスは僕らのダイヤモンドだった。初日で新種の果物を五種類も見つけた。ティンカーの分析結果も申し分なく、無事地球に持ち帰ることができそうだ。とはいえ貯蔵室にも、時間にもまだまだ余裕がある。もう少しこの惑星を楽しもう。

 一つ気になるのはケイ、それからティンカーまでもがこの惑星からは音楽が聞こえる、と言い出した事。植物以外の反応は無い、というモニター情報から矛盾している。

 草場の影から何かが飛び出してや来やしないか。 僕は少し怯えながら歩いている。

 

ホシノ・ケイジの航海日誌四日目

 

  驚くべきことが起こった。

僕らは音楽の源を見つけた。それは人間と同じくらいの大きさで、地球のヒマワリによく似た花だった。

 花が、ハミングのような音を出しながら風もないのに左右に揺れていた。しかし、驚きはそれだけでは終わらなかった。花の中央、ヒマワリなら種が出来る部分からポロポロと何かがこぼれたのだ。

  零れ落ちたものをティンカーに分析させようと手を伸ばした僕をケイが止めた。よく見れば零れ落ちたものは凄い勢いで地中に根を張り、芽を出そうとしている。

 ほんの5分ほどで芽が伸び、50㎝程の葉が出てきた。 伸びた葉は花のハミングに合わせて揺れている。僕はその葉を掴み、ぐっと抜いた。

 「Фея леса!」

謎の言語を発しながら、葉の下から謎の生き物が出てきた。

小柄ながら四肢があり、人間によく似た姿をしている。色はリンゴのような赤で、頭から葉が生えていた。腰を抜かした僕はティンカーに言った。

「生命体は居ないって話だっただろ?これはなんだ?」

「植物です。新種の」

ティンカーの指示通り、僕とケイは周りに生えた揺れる葉を次々と抜いた。葉はどれも同じ音声を発しながら外に出てきて、仲間同士集まって揺れていた。極めて大人しい種族の様だった。その様子をモニターしていたティンカーが言った。

「どうやら昆虫程度の知能を持つ植物のようです。互いに微弱な信号を送って仲間を認識しているようです」

「四肢を持って歩く植物だって?」

「そうです。電波や音声の簡単な信号で仲間同士交流しているようです。どうしますか?偽造信号を送れば、食物を船まで運ぶ程度の簡単な労働をさせることも可能ですが」

 この惑星の植物の大きさに辟易していた僕はティンカーの提案に乗ることにした。ケイは違う星の生物を奴隷にするなんて、と渋っていたが一時的に仲間と認識させるだけで通信を切れば彼らはまた自由になる、と聞き承諾した。彼女も重い果物を船まで運んでいく原始的な作業にうんざりしていたようだ。

「彼らのことはフェーヤ、って呼びましょうよ」
ケイが言った。
「フェーヤ?」
「妖精、って意味。彼らの言葉ロシア語みたいでしょう?」
言われればそう確かに聞こえなくもない。

 とにかく僕たちはティンカーの出す笛のような音に従うフェーヤを引き連れ食べ物の採取を続けることにした。フェーヤは良いパートナーだった。力持ちで、数が足りなくなればその辺で揺れている草を引き抜くだけで補充できる。

僕らの仕事は順調に進んでいる。地球に帰る日が楽しみだ。

 

ホシノ・ケイジの航海日誌五日目

 

 順調、と考えるのは甘かったようだ。探索中突然の悲鳴に振り返ると巨大なカエルのような生物が長い舌を伸ばしフェーヤ達を巻き取り丸ごと飲み干していた。

小魚の群れの様にうろたえ、舞い踊るフェーヤ。ティンカーが離れた場所で笛を吹き、彼らを退却させる。そのすきに僕とケイはカエルをプラズマ銃で撃ち息の根を止める。念のため武器を携帯していて良かった。

ぶよぶよした水風船のようなカエルが倒れるとフェーヤ達が死体に群がった。よく見るとカエルの体液をちゅうちゅうとすすっているのだ。

「食べてる…!」
ケイが驚いた。
「彼らはこの星の植物です。遺伝子情報から分析すると両方ともあの大きな花から生まれたようです。互いを食べることで肥料のように養分を得ています」
ティンカーが言う。彼女がフェーヤ達を整列させようと笛を吹いても彼らはしばらくカエルに執着していた。

その様子を見ていたケイが呟いた。
「美味しいのかしら…?」
「ケイ!」
思わず声を上げる。僕たちの星では生物保護の観点から動物を食べることが禁じられていた。かつての『肉』という食べ物の味はシステムで再現されているが原料は全て植物性だ。
「あら、だってこれも植物なんでしょう?見た目はグロテスクだけど料理になってしまえば分からないわよ。食べられるかどうか、船に持ち帰って分析しましょう」
結局僕達は巨大なカエルの死骸をフェーヤに運ばせることにした。

 

ホシノ・ケイジの航海日誌六日目 

 

 その夜僕は胸騒ぎで目を覚ました。見ると窓の外に赤い火が揺れていた。火事だろうか、規模が大きいようなら船を動かさないと。急いで外に出るとケイが焚火の前で瞳を輝かせていた。

 就寝時刻はとっくに過ぎている。そう言うと彼女は軽く手を振った。
「ここは地球じゃないわ。ルールを守らなくても、私達は自由なの」

 考えたこともなかった。決まった時間に起き、眠る。それはルールではなく僕らの体や精神を守るための措置だと思っていた。

 自由、不自由?上を見上げれば明かりの無いこの星の夜空は美しかった。
その時僕は何かが焼ける香ばしい匂いに気が付いた。串にささった何かが、焚火の火で炙られている。
「昼間のカエルもどきよ」
「どうして調理システムを使わない?」
自分で調理をする、というのは僕達にとってのタブーだった。いったいどれだけの人が食中毒や細菌で命を落としただろう。
「拒絶されたのよ。この肉には分析できない成分が含まれています、安全ではありませんって」
「そんなものを食べようなんて、どうかしてる!」
ケイは黙って串を取り、肉に噛り付いた。汁がしたたりおち、彼女の唇を濡らす。僕は息を飲み見守った。倒れるのでは、と思ったが彼女は飲み下し笑って見せた。

「大丈夫。毒がないかは確かめたわ。ねぇ、食べてみたい物があっても調理システム任せ。身体に悪い事はしちゃだめ。私達はまるで機械の子供みたいだわ。この星にいる時ぐらい、自由になりたいとは思わない?」
僕の頭はぐらついている。でも何故か、抑圧されていたから意識できなかったのだ、と言う言葉が脳裏に浮かび離れなくなった。

 ケイは夢中で謎肉にむしゃぶりついている。
「美味しいの、それ…?」
躊躇いがちに声を掛ける。ケイは僕にも一本の串を差し出した。
「最高よ。食料ハンターなら食べてみなくちゃ」
分析できない成分、調理システムの拒否。色んな考えが頭をよぎったが僕は目の前の物の誘惑にこらえられず肉にかぶりついた。結局僕の好きなことは食べる事だけなのだ。

「うまい…!」
一口食べて思わず声が漏れた。ただ焼いただけなのに、ねっとりと甘さを感じる脂が絡み付きそれでいて臭みはない。少し歯ごたえのある肉は噛みしめるほど味わいを増してゆく。赤身の肉のような味わいかと思ったが部位ごとにまるで違った味が楽しめる。白い脂身のような部分は口でとろけ消えてしまう。軟骨のようなコリコリとした骨のようなものが入った部位もあり食感がたまらなかった。
 気が付けばあっという間に一本食べてしまっていた。ケイの周りにも食べ終わった後の串が散乱している。

「お腹も一杯になったし、今度はあなたが食べたくなったわ」
彼女の目が妖しく光る。人間同士の性交渉は推奨されていない。病気のリスクが高すぎる。しかし彼女は構わずに僕の上に乗った。
「私は今自由なの。自分のしたい事をするのよ」
彼女の意識に飲み込まれ僕の良識ははじけ飛んだ。

 

ホシノ・ケイジの航海日誌七日目 

 

 朝起きるとケイは裸の背を向けハミングを口ずさみ揺れていた。その旋律やリズムがこの星の巨大な花やフェーヤを彷彿とさせ僕はぞっとした。

「私手に入れたの、自由の代償と本当の幸せ」
ケイの声は静かだった。
 彼女は大きく両手を広げ駆け出した。広げた両手は日の光の中で葉に変わり、頭は花へ、駆けていた脚はやがて地中に根を張り一本の花になった。
ちょうど人と同じくらいのサイズの。

 その時僕は初めて僕が今まで見ていた花がなんだったのかを理解した。この星の文明を築いた人達がどこへ消えたかも。
吐き気を懸命にこらえ、船に飛び込む。もうこんな場所には居られなかった。

 

ホシノ・ケイジの航海日誌八日目

 

 僕は今地球へ向かう船の中だ。
時が経って、僕の頭がリズミカルに揺れ出してやっと彼女の言う「自由の代償と本当の幸せ」が理解できた。

 太陽にでも突っ込んでしまおうかと思ったけれど僕はもう乗っ取られている。だいだい全ては機械任せの船だ、進路を変えようなんて考えるだけ無駄。信じられないような多幸感。僕はハミングを口ずさみ、小さく揺れていた。

 船は地球に着くだろう。沢山のギフトを乗せて。

                                  FIN.

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ピクミン3

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